「抜歯が必要です」と言われた。でも今は痛くないし、普通に噛めている。それならもう少し様子を見たい。
そう考えるのは、ご自身の歯を大切に思っているからこそでしょう。
ただ、当院には気がかりな経験があります。抜歯が必要とお伝えした歯について、痛くないので様子を見たいとおっしゃる。そのまま来院が途絶え、しばらくして再び来院されたときには、大きな骨の欠損ができている。そうしたケースです。
インプラントのご相談でも、同じ経過の方にお会いすることがよくあります。
結論:心配なのは「様子を見ること」より「確認しないまま時間が過ぎること」です
様子を見る選択が、すべて間違いというわけではありません。ただし、歯の周りの骨の変化は外から見えず、痛みで知らせてくれるとも限りません。
- 「噛める」「痛くない」は、骨が無事という意味ではない
- 様子を見るなら、検査を続けることが前提になる
- 残すか抜くかは、検査の結果と選択肢を見比べて決められる
では、噛めている歯がなぜ抜歯と言われるのか、そこから整理します。
【噛めているのに、なぜ抜歯と言われるのでしょうか】
噛めるのは、周りの骨がまだ歯を支えているからです。歯の内部や根の状態が良いという意味ではありません。抜歯をお勧めする理由として多いのは、次のような状態です。
■根が割れている
歯の根が縦に割れた状態を、歯根破折といいます。割れ目に細菌が入り込み、その周りで炎症が続きます。現時点では、抜歯以外の方法は限られるとされています。
■根の先の病変が治る見込みが低い
根の先の病変(根尖病変)は、歯の根の先で細菌による炎症が続いている状態です。根の治療で治ることも多いのですが、歯の割れや、治療の難しさによっては残すのが難しい場合があります。
■かぶせ物を支える歯がほとんど残っていない
見た目はきれいでも、かぶせ物の下に土台となる歯が足りないことがあります。
【様子を見ているあいだに、何が起きているのでしょうか】
痛くないのは、問題がないからとは限りません。初期の歯根破折は症状がないこともあると、欧州歯内療法学会の声明でも指摘されています。
根の先の病変も同様です。治療後も病変が残った185か所を調べた報告では、受診が必要なほどの急な痛みは20年で5.8%でした。軽い痛みまで含めると45%で、強い痛みが出ない歯のほうが多かったのです。
一方で、炎症が続く場所では骨が失われていきます。歯内療法の総説では、進んだ歯根破折の歯を適切な時期に抜歯すると、痛みを防ぎ、骨の吸収を抑えられるとされています。骨が大きく失われると、インプラント治療が複雑になったり、遅れたりするおそれがあります。
■すべての歯が大きく悪化するわけではありません
反対の方向の報告もあります。症状のない小さめの根尖病変を1年間見た調査では、大きさはほとんど変わりませんでした。157人のうち、症状が出て治療が必要になったのは3人です。ただし、1年という短い期間の結果で、著者らも長い経過の確認が必要としています。
つまり、短期間では変わらない歯もあります。だからこそ、経過を見ていくなら検査が欠かせません。
【こんな変化があれば、早めにご相談ください】
歯根破折と関連するサインとして、研究では次のものが挙げられています。
- 歯ぐきにニキビのようなふくらみ(膿の出口)ができた
- 歯ぐきが腫れた、膿が出たことがある
- 叩いたときに響く、噛むと痛む
- 一部分だけ深い歯周ポケットがある
最後の項目は、ご自身では気づけません。サインがなくても骨が減っていることはあるため、症状だけで安心しないことが大切です。
【「様子を見る」を選ぶなら、あらかじめ決めておきたいこと】
抜かずに経過を見ることが、すぐに間違いというわけではありません。歯周治療のガイドラインでも、保存が難しい歯が噛み合わせを保っている場合の記載があります。他の治療を先に進めてから抜くこともある、という内容です。また、抜歯にはご本人の理解と同意が欠かせないとも書かれています。
様子を見る場合は、次の3つを歯科医師と共有しておくと安心です。
- 次の検査の時期:いつ、何で確認するか
- 抜歯を考える目安:どんな変化があれば方針を見直すか
- 抜いたあとの計画:どの方法で補うつもりか
検査の間隔は、歯の状態によって変わります。痛みが出たときだけ来院するのではなく、検査の予定を入れておくのが「様子を見る」ということです。
【残す・抜くの選択肢を比べて決めましょう】
自由が丘歯科・矯正歯科では、歯科用CTなどの検査結果をもとに、複数の方法を並べてご説明します。比べてみて初めて、ご自身に合う進め方が見えてくることもあります。
■歯を残す方向の選択肢
- 精密根管治療:マイクロスコープを使って根の治療を行う
- マイクロエンドサージェリー:歯ぐきの側から根の先の病変を処置する
- 意図的再植:いったん歯を抜き、口の外で処置して戻す
いずれも、根が割れていないことなどの条件があり、歯の保存を永久的に保証する治療ではありません。
■抜いたあとの選択肢
- インプラント:周りの歯を削らずに済むが、骨の量が必要で、外科処置を伴う
- ブリッジ:外科処置は不要だが、両隣の歯を削る必要がある
- 入れ歯:取り外せて調整しやすいが、噛む力や違和感に個人差がある
♦よくあるご質問♦
Q.噛めている歯を抜くのは、もったいなくないですか?
A.そう感じるのは当然です。残せる可能性があるなら、当然ながらまずはその方向で検討します。ただ、残せない歯を長く置くと、炎症などが広がって次の治療に使う骨が減ることがあります。歯だけでなく、骨も一緒に守るという考え方です。
Q.ほかの歯科医院で抜歯と言われました。相談だけでも大丈夫ですか?
A.もちろんです。お持ちのレントゲンや説明の内容があれば、ご持参ください。抜歯以外の方法が考えられるか、検査のうえでご説明します。同じ結論になることもあります。
Q.抜いたら、すぐにインプラントにしないといけませんか?
A.いいえ。ブリッジや入れ歯も選べますし、考える時間をとることもできます。ただし、抜いた部分の骨は時間とともに痩せていくため、インプラントをお考えなら早めに計画を立てるのが安心です。
Q.しばらく歯科に行けていません。今からでも診てもらえますか?
A.はい。久しぶりの来院でも、気にせずお越しください。今の骨の状態が分かれば、これからの選択肢を一緒に整理できます。
Q.費用と期間はどれくらいですか?
A.いずれも自由診療の目安です。インプラントは1本でおよそ50〜85万円で、骨造成(骨を増やす処置)の有無や上部構造(かぶせ物)の種類で変わります。期間はシンプルなケースで3〜4ヶ月、骨移植などが絡むケースで6ヶ月前後です。
術後消毒(720円〜)、型どり(6,600円)、補綴処置(5,500〜11,000円)は別途かかります。精密根管治療は約10〜17万円(部位による)、回数は3回前後で、かぶせ物の費用は別途です。総額は個別のお見積もりでお伝えします。
【安全性について】
抜歯が必要な歯を残す場合には、急な腫れや痛み、骨の減少が進むといったリスクがあります。根の治療は歯の保存を保証するものではなく、治療を始めてから状態が悪いと分かり、抜歯を含めてご相談することもあります。
抜歯、インプラント、骨造成は外科処置です。腫れ、痛み、内出血、感染、知覚異常などのリスクがあり、追加の処置が必要になることがあります。
病変の進み方、治療の結果、費用、期間には個人差があります。全身状態、喫煙、糖尿病、服薬内容によっては、ご希望の方法を選べないこともあります。自由診療のため、費用と期間は目安であり、症例によって変わります。
監修者
榊原 毅
日本口腔インプラント学会 専門医/日本包括的矯正歯科学会 副代表理事/日本歯周病学会 認定医/日本矯正歯科学会 会員/インビザライン認定医/厚労省認定臨床研修指導歯科医(東京科学大学 歯学部)
「不安を煽らず、できること・難しいことも含めて丁寧に説明し、納得して選べる診療を心がけています。」
参考文献
- 日本歯周病学会『歯周治療のガイドライン2022』
- Patel S, et al. Present status and future directions: vertical root fractures in root filled teeth. Int Endod J, 2022.
- Patel S, et al. Position statement on longitudinal cracks and fractures of teeth. Int Endod J, 2025.
- Yu VS, et al. Incidence and impact of painful exacerbations in a cohort with post-treatment persistent endodontic lesions. J Endod, 2012.
- Sayady-Ölander M, et al. Monitoring Asymptomatic Apical Periodontitis in Root-Filled Teeth: Results From a One-Year Follow-Up Prospective Study. Int Endod J, 2026.
- Haupt F, et al. Risk Factors for and Clinical Presentations Indicative of Vertical Root Fracture in Endodontically Treated Teeth: A Systematic Review and Meta-analysis. J Endod, 2023.
- Couso-Queiruga E, et al. Post-extraction dimensional changes: A systematic review and meta-analysis. J Clin Periodontol, 2021.
- 厚生労働省「医療広告ガイドライン」
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