マウスピース矯正のご相談では、“本当に計画どおりに進むのか”という不安も一緒に抱えて来られる方が多いものです。この記事では、判断に必要なポイントを整理して、落ち着いて選べる形にまとめました。
先日、院内でアライナー矯正(マウスピース矯正)の勉強会を行いました。発表は勤務医、聞き手は歯科医師・歯科衛生士・スタッフです。
勉強会後に集まったレポートで、歯科衛生士の多くが同じことを書いていました。「定期チェックで、上の2番目の歯にアライナーが浮いているのをよく見かける」。
この“浮き”を入り口に、マウスピース矯正の得意・不得意と、治療の進め方をご紹介します。
【アライナーが浮きやすいのは、上の前から2番目の歯】
アライナーが浮くとは、マウスピースと歯のあいだにすき間ができ、歯にぴったり沿っていない状態です。この状態が続くと、その歯には計画どおりの力がかかりません。
浮きがとくに出やすいのが、上の前から2番目の歯、側切歯(そくせっし)です。
*なぜ、この歯なのでしょうか
- 歯そのものが小さく、細い形をしている
- 表面が丸く、マウスピースが引っかかる面が少ない
- この歯でよく必要になる動きが、マウスピースの苦手な動きに重なる
苦手な動きとは、歯をねじる「回転」、歯ぐきから引き出す「挺出(ていしゅつ)」、根の傾きを整える「トルク」の3つです。
日本矯正歯科学会の指針にも、歯の形によってマウスピースのつかむ力に差が出ることが、治療上の注意点として挙げられています。
「浮いているとは思っていたけれど、なぜ難しいのかが発表でよくわかった」。レポートにはそんな感想もありました。
【浮きに気づいたら:チューイーを噛む習慣】
チューイーは、マウスピースを歯にしっかり押し込むための、小さなシリコン製の道具です。マウスピースを入れたあと、浮きやすい部分で数分間噛んでいただきます。
ところが問診をすると、「最初は使っていたけれど、最近は使っていない」という方が少なくありません。とくに学生の方など、生活が忙しい時期に抜けがちです。
そこで、チューイーの使い方を確認する場面を増やしました。歯科衛生士がチェックを担当するときだけでなく、診療のアシストに入るときにも問診します。浮きを見つけたら担当医に報告し、計画の見直しにつなげます。
*ご自宅で気をつけていただきたいこと
- マウスピースを入れたら、チューイーで全体を噛み込む
- 上の2番目のあたりは、とくに意識して噛む
- 噛んでも浮きが戻らない場合は、チェックの際にお知らせいただく
【計画と実際の動きには、もともと差があります】
浮きの問題は、使い方だけが原因ではありません。
マウスピース矯正では、治療前に歯の動きをコンピューター上で再現します。インビザラインでは「クリンチェック」と呼ばれます。ただ、このシミュレーションには歯の根の位置の情報が十分に含まれていない、と学会の指針も指摘しています。
そこで、自由が丘歯科・矯正歯科では精密検査で撮影したCTのデータと、お口の中をスキャンした情報を重ね合わせています。歯の根と骨の関係を見える形にしてから、歯の動きをシミュレーションします。
それでも、歯が画面どおりに動き切らないことは珍しくありません。研究では、計画した移動量に対して実際に達成された割合は平均で約5割と報告されています(2020年)。複数の研究をまとめた論文では、引き出す動きの達成度は約30%と、最も難しい動きでした。
1回目の計画だけでぴったり仕上がることは、むしろ少ないと考えておくのが自然です。
【追加アライナーを「前提」にして始めます】
最初のマウスピースを使い終えたあと、今の歯の状態に合わせて作り直すのが追加アライナーです。
これは「治療を仕上げるための工程」として考えています。
*計画の段階で行っている工夫
- 上の2番目を動かす前に、周りに十分なすき間を作っておく
- 動かしている途中で、隣の歯とぶつからない順番にする
- 動きにくい方向には、少し多めに動かす設定を入れる
追加アライナーが必要になる可能性は、皆さんに治療を始める前からお伝えしています。
【理想の仕上がりと、現実の見通しをすり合わせる】
マウスピースには得意な動きと、限界があります。
歯の動きは、骨の硬さや歯の根の長さ、噛み合わせの強さ、装着時間にも大きく左右されます。
動きにくい歯を、何年も作り直しながら追い続けることが最善とは限りません。部分的な矯正に切り替える、あるいは区切りをつける。そうした話し合いも大切な治療の一部です。
*いくつかの進め方を比べて選べます
- マウスピースだけで進める
- 動きにくい部分にだけ、ワイヤーを併用する
- 最初からワイヤー矯正を選ぶ
- 仕上がりの目標そのものを見直す
どれが合うかは、歯の状態と、ご本人が何を優先したいかで変わります。資料を取る前や同意書をいただく段階で、リスクや限界も含めてお伝えしています。
術前には、矯正治療のリスクや注意点をまとめた書類もご確認いただいています。
♦よくあるご質問♦
Q.マウスピースが浮いているのは、私の使い方が悪いからですか?
A.使い方だけが原因とは限りません。上の前から2番目の歯は形の関係で、もともとマウスピースの力が伝わりにくい歯です。骨の硬さや歯の根の長さなどにも、歯の動きは左右されます。チューイーを使っても浮きが戻らない場合は、計画側の調整が必要なこともあります。チェックの際にお知らせください。Q.チューイーは、どのくらい噛めばいいですか?
A.マウスピースを入れるたびに、数分間を目安に噛んでください。前歯から奥歯まで位置をずらしながら噛み、浮きやすい歯のあたりは念入りにします。使い方に迷ったら、チェックの際にスタッフにお声がけください。
Q.追加アライナーは何回くらい必要ですか? 費用はかかりますか?
A.回数は歯並びと動かし方によって異なります。費用は自由診療で、1回13,310円です。
Q.矯正中のクリーニングは、どのように受けられますか?
A,自由が丘院では、矯正治療中の方向けの限定クリーニングコースがあります。ワイヤー矯正・マウスピース矯正のどちらでもご利用いただけます。15分(3,630円)、30分(6,050円)、45分(7,260円)の3コースです。
Q.費用と期間の目安を教えてください。
A.自由診療です。前歯中心の部分的な治療でおよそ24〜49万円、全体の治療でおよそ59〜95万円が目安になります。期間は3ヶ月程度から3年程度まで、歯の状態によって大きく異なります。別途、矯正診断料がかかるほか、月1回程度の管理料と保定装置の費用も必要です。総額は、診断後に個別のお見積もりでお伝えします。
【安全性について】
マウスピース矯正には、次のようなリスクがあります。
- 装着時間が不足すると、歯が計画どおりに動かない
- 動きにくい歯があり、追加アライナーやワイヤー併用が必要になる場合がある
- 痛み、違和感、話しにくさを感じることがある
- 歯根吸収(歯の根が短くなる)や、歯ぐきが下がる変化が起こる可能性がある
- 保定装置を使わないと、歯並びが後戻りすることがある
結果・期間・費用には個人差があります。自由診療のため、費用と期間は目安であり、症例によって変わります。
インビザラインは、医薬品医療機器等法(薬機法)上の承認を受けていない矯正装置です。米国アライン・テクノロジー社の製品を、歯科医師の指示のもとで入手しています。日本をはじめ世界の多くの国で使われていますが、未承認の装置であるため、医薬品副作用被害救済制度の対象外となる場合があります。
監修者
榊原 毅
日本口腔インプラント学会 専門医/日本包括的矯正歯科学会 副代表理事/日本歯周病学会 認定医/日本矯正歯科学会 会員/インビザライン認定医/厚労省認定臨床研修指導歯科医(東京科学大学 歯学部)
「不安を煽らず、できること・難しいことも含めて丁寧に説明し、納得して選べる診療を心がけています。」
参考文献
- 日本矯正歯科学会『アライナー型矯正装置による治療指針』(2017)
- Haouili N, et al. Has Invisalign improved? A prospective follow-up study on the efficacy of tooth movement with Invisalign. Am J Orthod Dentofacial Orthop, 2020.
- Rossini G, et al. Efficacy of clear aligners in controlling orthodontic tooth movement: a systematic review. Angle Orthod, 2015.
- 厚生労働省「医療広告ガイドライン」
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